本当にあった怖い話 第六話 <ファミレス>

私は日本語にうるさい。
愛読書は広辞苑だ。
誤った文法の表現や、伝統を無視した言葉の使い方には
我慢ができない。
 
最近、妙な話を聞いた。
ファミレス言葉というものがある。と。
ファミレスというのは、ファミリーレストランのことだ。
私は、このファミレスという言葉が嫌いだ。
なぜ略す?
正確にファミリーレストランと言うべきではないか。
ファミリーレストランという言葉も、実は気に入らない。
別に外来語がいけないと言っている訳ではない。
そういう問題ではないのだ。
デパートのレストランが独立店舗になって大型化した
だけではないか。
なぜ、頭にファミリーを付ける?
それは、レストランだ!
外国から文化を輸入するのは、もちろん構わない。
だから、ファミリーレストランという文化を輸入するのも、
もちろん、構わない。
だが、言葉まで輸入する必要など、どこにもない。
既に使用されている外来語を無視して、新たな外来語を
導入する必要がどこにあるというのだ。
 
まぁ、良い。
既に定着している以上、それは良しとしよう。
問題は、「ファミレス言葉」だ。
聞いた話によると、注文を取り終わったところで、
「ご注文は以上でよろしかったでしょうか」
と言うのだそうだ。
意味が分からない。
いくら日本語が乱れてきているとはいえ、そのような
表現が実際に使われているとは、信じがたい。
恐らく、何かの誤りであろう。
誤りであろう、とは思うのだが・・・
しかし、本当に使われているのであれば、それは見過ごす
訳にはいかない。
オーナーなり、店長なりに注意し、改めさせる必要がある。
従業員の教育は、使用者の責務に他ならない。
そして、もし、使用者がそれに気づいていないのであれば、
それを注意するのは、我々、利用者の責務である。
日本の文化、言葉の乱れを学校教育や政治のせいにし、
ただ嘆くばかりでは何も変わらない。
自分の足元から改善していく努力こそが、大切なのだ。
そう、私は考える。
 
だから、私は、ファミリーレストランに行くことにした。
 
私が店内に入ると、ウェイトレスが近づいてきた。
「いらっしゃいませ! ・・・」
言葉の後、最敬礼になる。
うむ。
この店は、教育がゆきとどいているようだ。
だが、問題はここではなく、注文を取・・・
「・・・ご主人様!」
え?
ご主人様、と言った後、ウェイトレスは最敬礼どころか、
土下座になった。
「なんなりとお申し付けください、ご主人様!」
 
教育どころか、調教がゆきとどいていた。

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